東京地方裁判所 平成10年(ワ)9399号 判決
原告 株式会社ティ・エム・ジー
右代表者代表取締役 大和昌博
右訴訟代理人弁護士 出澤秀二
右訴訟復代理人弁護士 高野浩樹
被告 株式会社アドニス電機
右代表者代表取締役 福井淳一
被告 福井淳一
右両名訴訟代理人弁護士 宮塚久
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、各自金一億〇三九六万七〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年五月一〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告会社から継続的にカラオケ演奏機能用コインボックスを購入した原告が、右コインボックスには被告会社の責に帰すべき重大な瑕疵があるとして、被告会社とその連帯保証人である被告福井に対し、取引基本契約の約定若しくは右契約の解除による損害賠償として又は返品特約に基づき、一三〇〇台分の既払代金相当額七〇九六万七〇〇〇円の支払と、右約定若しくは契約解除による損害賠償として又は製品の開発製造合意の履行不能による損害賠償等として(後者については被告会社のみ)開発製造費三〇〇万円及び金型代金三〇〇〇万円相当額の支払とを各請求する事案である。
一 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実)
1 原告は、電機音響機器等の販売等を目的とする会社であり、被告会社は、電子機器の製造及び販売を目的とする会社である。
2 原告は、平成八年三月一日、被告との間で、被告がカラオケ演奏機能用コインボックス(以下「コインボックス」という。)SK六〇〇(以下「本件製品」という。)を製造して、原告に継続的に供給する契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した(ただし、その法的性質は争いがある。)。右契約には次の約定がある。
(一) 目的 被告会社が製造する本件製品を原告が購入して、自己の販売ルート、販売網を通じて販売する。
(二) 返品 受入検査完了後、被告会社の責に帰すべき原因による瑕疵が発見された取扱商品については、原告は、被告会社に返品することができ、それに関わる費用は被告会社の負担とする。
(三) 品質保証 被告が本件製品を納入後、一二か月以内に被告会社の責に帰すべき製造上の隠れた瑕疵(製品の品質、性能の不良、変質等に起因する重大な瑕疵をいう。)が発見された場合は、被告は自己の責任と費用でこの瑕疵を直ちに補修し又は交換する。被告は、右瑕疵により原告が被った損害を賠償する責に任ずる。
3 被告福井は、右同日、原告に対し、本件基本契約に基づく被告会社の債務につき連帯保証した。
4 その後、原告は、被告会社に対し、平成八年五月二四日付け念書に基づき、本件製品の開発製造費三〇〇万円及び金型代金三〇〇〇万円を支払った。
5 被告会社は、本件基本契約に基づき、本件製品を製造し、原告に対し、平成九年五月までに合計五〇〇〇台を売り渡した。
6 右納入した本件製品代金は二億七二九五万円(単価五万三〇〇〇円×五〇〇〇台に消費税三パーセントを加算)であり、原告は、被告に対し、右代金を次のとおり支払った(乙五の1ないし3の各1ないし14、弁論の全趣旨)。
(一) 現金及び小切手・約束手形(決済分) 一億二八八一万四一〇〇円
(二) 約束手形(未決済分) 一億四四一三万五九〇〇円
7 原告は、平成一〇年五月九日送達された本件訴状により、被告会社に対し、債務不履行を理由に本件製品の売買契約を解除し、予備的に被告会社の納入した本件製品を返品し、その引渡の口頭の提供をする旨の意思表示をした。
二 争点
本件製品に被告の責に帰すべき瑕疵があるか否か。
1 コイン選別部の誤作動について
(一) 原告の主張
(1) カラオケ演奏の料金は一〇〇円単位で設定することになっており、一〇〇円硬貨以外を料金として認識してはならないにもかかわらず、一円、五円、五〇円の各硬貨その他一〇〇円硬貨以下の直径の外国通貨を料金として認識し、装置が作動してしまう瑕疵がある(以下「本件瑕疵」という。)。
(2) 本件製品につき、原告は、欲しい商品の機能を述べて、あとは専門家である被告会社に製作を委ねたのであり、被告会社がそれらの機能を実現する商品を制作販売してくれることを前提に締結したもので、本件基本契約は売買契約である。
しかして、コイン選別部のようなコインボックスの本質的部分については、問題ない製品を製造するのが機械の専門家としての責任である。
(3) 原告は、既製品の改良を依頼したものではなく、新たな商品の開発製造・販売を依頼したのである。
(二) 被告らの主張
(1) 本件製品に本件瑕疵があることは認める。
(2) しかしながら、本件基本契約は、原告の注文により、原告の指図に基づいて製品を製造する請負契約と、被告会社が自ら部品を調達し、これを組み立てた製品を原告に引き渡し、所有権を移転する売買契約の混合契約である。
(3) そして、被告会社は、本件製品を、原告が従来有していたコインボックス製品(SK五〇〇)を原告の注文どおりに改良した製品として制作、納入することを請け負ったものである。
(4) コイン選別部の構造が原告主張のとおりになっているのは、原告の指図によるものであり、本件瑕疵は、注文者の指図により生じたものである。さらに、被告会社は、原告に対し、本件製品に先立つSK五〇〇の製造過程で、コイン選別部に旭精工株式会社(以下「旭精工」という。)製のコイン選別機MS一〇〇を取り付け、コイン選別部の構造を傾斜方式から電気方式に変更することを提案したが、原告はコスト面からこれを拒否し、改めてコイン選別部の構造を従来どおり傾斜方式にするよう指示しているから、原告の指示に従ったことについて被告会社に責任はない。
2 ノイズの発生について
(一) 原告の主張
本件製品を使用したカラオケ装置は、音声にノイズがひどく、カラオケが歌いにくいため、利用者の苦情に耐えられない。また、設置店がトラブルの所在がカラオケシステムの別の装置にあるものと誤解することにより対応に大変な手間がかかり、それに伴う設置店からの大きな苦情が販売店に上がってくる。
(二) 被告らの主張
(1) 本件製品自体から発生するノイズはない。
(2) 仮に、本件製品をカラオケ演奏システムに組み込んだ際にノイズが発生するとしても、それは、<1>被告会社が付属コードを開発・納入することによって解決されているか、又は<2>接続・配線上の問題であって、これはカラオケ周辺機器の販売・設置業者がその通常有する技術的な知識・経験をもって雑音が出ないよう設置店において適切に接続・配線して対応すべき問題である。
(3) したがって、原告主張のノイズは本件製品自体の瑕疵によるものではない。
三 証拠関係は本件記録中の証拠目録記載のとおりである。
第三当裁判所の判断
一 前示第二の一の事実に、証拠(甲一ないし三、五、七、乙一の1ないし4、二ないし四、九の1、2、一〇、一一の各1ないし4、一二の1ないし3、一三ないし二二、証人中村朝彦、原告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
1 コインボックス(課金装置)とは、カラオケ演奏装置本体に接続することによりカラオケ演奏を有料化するための機械装置で、演奏開始の指示を入力すると、コインボックスに所定の料金が入っている場合にのみカラオケ演奏が開始される仕組のものである。
2 原告は、主として、カラオケ装置及びコインボックスを含むその関連機器をメーカーや卸売業者から購入し、第二次卸売業者やカラオケ小売業者等の販売業者に卸販売していた会社である。
3 株式会社サンポー技研(以下「サンポー技研」という。)との取引
(一) 原告は、平成三年四月ころ、竹下與一(以下「竹下」という。)の経営するサンポー技研にカラオケ採点機能を併せ持ったコインボックスの製造を依頼し、サンポー技研は、これに応じて製品(CM三〇〇)を試験的に五〇台ほど製造して原告に納入した。
(二) 右製品は、受注者が注文者の指図に従ってそのとおりに製品を製造し、これを納入するいわゆるOEM商品であり、サンポー技研は原告の指示により製造者をC.B.C.CORPORATIONと表示して原告に出荷した。
(三) CM三〇〇は、原告の指示により、外形寸法及び課金機能の動作をパイオニア製のコインボックスと同じものとし、これに採点機能及びルーレットゲーム機能を加えた装置として製造された。
(四) CM三〇〇の硬貨投入部分(コイン選別部)については、原告が、コス卜節減を理由に、東京の他のメーカーに制作させていた傾斜方式(投入口からスイッチ部分までの導入路に傾斜を持たせ、径の小さい硬貨をスイッチ部分に到達するまでに落下させ、もって所定の硬貨とそれ以外の径の小さい硬貨を選別する方式)のものを使用するようサンポー技研に指示し、そのサンプルの提供を受けてサンポー技研で起こした金型により制作した部品が使用されていた。
(五) その後、量産品を制作することが予定されていたが、原告から追加発注がないまま、右取引は終了した。
4 SK五〇〇の取引
(一) 平成六年ころになって、原告代表者は、竹下に採点機能付きのコインボックスの発注を打診したが、竹下は、サンポー技研が既に倒産し、自らは他の事業を営んでいたため、サンポー技研の代わりに、CM三〇〇製造の際、その電子回路の一部を下請に出していた株式会社アドニス・エンジニアリング(以下「アドニス・エンジニアリング」という。)を原告に紹介した。
同会社は、音響機器の製造販売を主たる業務とする被告会社の関連会社であるが、研究開発や少量製品の製造を主とする会社で、量産品の製造や販売を主とする被告会社とは別会社である。
(二) 右紹介を得て、原告は、同年一一月ころ、アドニス・エンジニアリングに対して、採点機能付きコインボックスの製造を依頼し、その際次の点を指示した。
(1) パイオニア製品用のラックに入れて使用できるようにするため、基本的な機能、構造、前面外形寸法等は、CM三〇〇と同じにする。
(2) 点数をプリントアウトするのではなく、点数に応じて装置自体から硬貨を払い出すようにする。ルーレットゲーム機能はやめる。
(3) コインボックス本体に点数をディスプレイ表示する。
(4) 演奏開始の信号をカラオケ装置本体ではなく、コインボックスで受ける。
(三) SK五〇〇は、硬貨の払出装置が必要なため、アドニス・エンジニアリングの機構開発担当者である中村朝彦(以下「中村」という。)は、右装置を試作した。その際、同人は併せて旭精工製のコイン選別機(MS一〇〇)を使用した電気方式(投入された硬貨をホールドして磁気的に硬貨の材質を検証する方式)によるコイン選別をするコイン選別部の機構も試作し、これを原告代表者に提案したが、コスト増加を理由に断られた(原告代表者は、右提案を受けたことを否定する供述をするが、証拠(乙一四、証人中村)によれば、中村は旭精工からMS一〇〇を購入して電気方式によるコイン選別部を試作したことが認められるところ、これを試作しながら原告側に提案することを妨げるべき事情があったことは窺われないのであって、これを原告代表者に提案した旨の証人中村の証言に照らして、原告代表者の右供述は採用し難い。)。
そのころ、中村は、原告代表者に対して機械方式では「糸吊り」による不正操作の危険があることを機械方式による試作品を実演して説明したところ、原告代表者は構わないと述べた。
(四) そこで、アドニス・エンジニアリングは、コイン選別部については、竹下を通じてCM三〇〇の金型を取り寄せて、これによる成型品を組み込んでSK五〇〇を製造した。
(五) アドニス・エンジニアリングは、右のようにして製造したSK五〇〇を原告に納入した。SK五〇〇もOEM商品であり、アドニス・エンジニアリングではなく、原告側のブランド名で製造者が表示され、販売された。
5 本件製品の取引
(一) SK五〇〇は、一台七万円の価格であったが、五〇〇台から七〇〇台程度しか売れなかった。そこで、原告は、平成七年後半、アドニス・エンジニアリングに対し、より価格が安く、同時に三台分のカラオケ演奏が可能なコインボックスの新製品の製造販売の話を持ちかけ、その応諾を得た。
(二) そして、原告は、平成八年三月一日、被告会社との間で、本件基本契約を締結した。契約当事者がアドニス・エンジニアリングから被告会社に変更されたのは、新製品は量産が予定されていたことによるものであり、実際の製品開発はアドニス・エンジニアリングが担当した。
(三) 本件製品は、SK五〇〇のコストダウン商品かつ量産品であり、原告が改良を指示した部分以外は、SK五〇〇の機能・構造を踏襲することが前提とされていた。
しかして、原告が改良を指示した主な点は次のとおりであり、コイン選別部については格別の改良指示はなかった。
(1) カラオケ演奏装置本体一台に対し、アンプ、テレビモニタ及びコインボックスを各三台接続し、コインボックスの指示によりカラオケ演奏装置本体が順次各アンプ、テレビモニタから演奏を流すようにする。
(2) 投入された硬貨も払出用の硬貨として使用できるようにすると共に、電源が入っていない状態で硬貨を投入した場合、投入した硬貨が返却口から返却されるようにする。
(四) その後、原告は、同年五月二四日、被告会社との間で、(1) 金型の作成費用として三〇〇〇万円、(2) 開発製造費として三〇〇万円を支払うことを約し、これを支払った。
右(1) は、本件製品を大量に制作販売することが予定されたため、新たに金型を起こし、部品の成型やシャーシー(外枠)のプレス、折り曲げ、穴開けの工程を低コスト化することを目指したものであり、(2) は、右金型化に伴って、被告会社において、金型の形状やデザインを開発する費用、金型化に適合するよう機構を変更するための費用、回路基盤の取り付け構造を変更するための費用であって、いずれも本件製品をSK五〇〇と全く別の製品として製造するための費用として支出したものではない。
(五) 被告会社は、本件基本契約に基づき、本件製品を製造し、原告に対し、平成九年五月までに一台当たり五万三〇〇〇円で合計五〇〇〇台を納入した。
(六) 原告は、本件製品をベルテック株式会社の製造としてカラオケ小売業者等に販売したところ、コインボックス中に一〇〇円未満の硬貨が数多く投入されてカラオケ装置が使用されていたことの苦情が寄せられ、原告において調査した結果、一円玉でも強くはじく形で投入すると本件製品が一〇〇円玉と誤認してカラオケ演奏を開始させるなど、本件瑕疵が存在することが判明した。
二 争点1について
1 本件製品に本件瑕疵が存在することは当事者間に争いがない。
2 しかしながら、本件基本契約は、被告が原告と無関係に開発製造した商品の売買契約ではなく、原告が機能や仕様について指図し、これに基づいて被告が製品を試作し、完成した段階で、原告が被告会社に一定数を発注し、被告会社がこれを製造して納入するものであるから、原告が具体的使用について指図した点に瑕疵があった場合には、原告がその責を負うべきである。
3 前示認定の事実によれば、被告会社は、原告に対し、本件製品に先立つSK五〇〇の製造過程で、コイン選別部の構造を傾斜方式から電機方式に変更することを提案したが、原告はこれを拒否し、コイン選別部の構造を従来どおり傾斜方式にするよう黙示的に指示したものと認められるところ、その仕様を承継した本件製品のコイン選別部について、特段の改良の指示をしなかったのであるから、右瑕疵は原告の指図に基づくものというべきであって、被告の責に帰すべきものとは認め難い。
本件製品のコイン選別部の構造について、被告会社のほうが原告よりも専門的知識経験を有していたとは認め難いから、右指図につき被告会社に専門家としての説明助言義務違反があったとも認められない。
4 してみれば、右瑕疵を理由とする各請求は、その前提を欠くものであって、その余の点につき判断するまでもなく失当というべきである。
三 争点2について
1 証拠(甲三、四の1、七、原告代表者)によれば、原告は、本件製品の購入先からこれを使用してカラオケ演奏すると音声にノイズが発生する旨の苦情を受けたこと、これに応じて被告会社の技術担当者が本件製品を設置した店に赴き、修理を行う事態があったことが認められる。
2 しかしながら、本件製品自体からノイズが発生すると認めるに足りる証拠はない。
3 証拠(甲四の1、乙七、八の各1)に弁論の全趣旨を総合すれば、右ノイズは本件製品をカラオケ演奏システムに組み込んだ際に発生したものであるが、被告会社は、オプションとして付属コードを開発・納入することによって右問題を解決したこと、これでまかなえないノイズの発生は、本件製品を接続して使用する機器及びその配線等設置条件の問題であって、これはカラオケ周辺機器の販売・設置業者がその通常有する技術的な知識・経験をもって雑音が出ないよう設置店において適切に接続・配線して対応できるものであることが認められる。
右のほか、本件製品の瑕疵により右ノイズが発生し、これが未解決であると認めるに足りる証拠はない。
4 してみれば、右瑕疵を理由とする各請求も、その前提を欠くものであって、その余の点につき判断するまでもなく失当というべきである。
四 原告は、以上のほか、本件製品には、個々の製品によって、<1>得点を表示しない、<2>高得点でもコインの残量が戻らない、<3>数字のディスプレーが点灯しなくなる、<4>硬貨の残量が少ないという誤作動をして払戻が不能になるなどの瑕疵がある旨主張する。
しかしながら、仮にこれが事実だとしても、右瑕疵が本件製品全体にかかわる構造的な瑕疵であるとは認めるに足りる証拠はないから、これを理由に被告会社の納入した本件製品全体につきその売買契約を解除し、又はその損害賠償を請求することはできないし、これが本件製品全体を返品する理由になるとも認め難い。
五 以上の次第であるから、原告の請求はいずれも理由がないので棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 信濃孝一)